札の、こちらがわ。
癒
2026.10.20

漁港の岸壁に、白い札が一本立っていた。「海女専用」。
NANAはその札の手前まで来て、ぺたんと伏せた。
札より先へは行かない。ここから先は海女さんの場所だと、分かっているみたいに。
この日は大王埼の灯台のまわりを、一時間かけて歩いた。
浜に出て、干物が並ぶ網の前を通って、灯台を見上げて、最後にこの漁港に着いた。
NANAはどこでも、まず座る。座って、においをかいで、それから見る。
伏せたまま、NANAは港の水を見ていた。
海女さんが上がってくる時間ではなかったと思う。船も止まっていて、港はしんとしていた。
それでも、何かを待っているような顔をしていた。
NANAには、きっと分かっていた。
この札の向こうは、毎日海に入る人たちの場所だということ。
自分はこっちで待つ側だということ。
札の、こちらがわ。
待つ場所にも、ちゃんと海の風は届いていた。
-Reck
-Reck